漢方 葛根湯
葛根湯
「抗精神病薬の副作用としておこる鼻閉に対する葛根湯の有効性について」
―黒河内 彰―
(要旨)抗精神病薬の副作用として鼻閉をきたした精神分裂病の
5例に対して葛根湯エキス顆粒の有効性を検討した。(以下、論文参照)
葛根湯の成分である麻黄のエフェドリンとしてのアドレナリン類似の
薬理作用が他の成分と複雑に影響し合って鼻粘膜により選択的に作用したものと推察する。
(症例)
症例1:16歳 高校1年 男性
現病歴:高校入学時の1990年5月から、
他人が自分を陥れるという被害妄想が出現し、無理をして登校したが、
友人に「おまえは暗い」と言われたのを契機に強度の不安、
自殺念慮が現れたために同日当科に緊急入院する。(以下、論文参照)
入院後、2週間で被害妄想や不安状態は軽減した。
その後精神運動興奮を認めたため、HP、LPを投与。
しかし、HP、LPの投与直後から強度の鼻閉と口渇が現れた。
そこで、葛根湯(1日5g)を投与したところ、
翌日から呼吸がし易くなるなどの鼻閉の軽快を認め、投与後1週間で鼻閉は消失した。
症例2:33歳 女性
既往歴:1980年輸血後にC型肝炎になる。
現病歴:1987年頃より、独語が認められ、
唐突に大声を出すこともあった。
社会適応不良で定職がなく、家族内で無為に生活を送っていた。
その後突然、結婚相手が私を見ているという被害・注察妄想から盛岡に疾走し、
無知異常者を重ね、警察経由で当科に入院。
HP、TR、LPを経口投与したところ4週間で被害・注察妄想は消失し、
寛解状態となった。
しかし、抗精神病薬の投与直後から強度の鼻閉と口渇が現われた。
葛根湯(1日7.5g)を投与したところ、鼻閉が軽快し、
消失を認めた。(以下、論文参照)
(考案)鼻粘膜には血管が豊富に分布しており、
その拡張により鼻粘膜が腫脹して鼻閉をきたす。
鼻粘膜血管は、主に交感神経支配のα受容体刺激で収縮する。
また、鼻線の分泌は、副交感神経刺激によって増加する。
故に、抗アドレナリン作用と抗コリン作用を持つ向精神薬の投与で、
鼻閉と鼻腔内乾燥が起こるのである。(以下、論文参照)
「葛根湯の肩こりに対する改善効果とサーモトレーサーによる検討」
―矢久保 修嗣 小牧 宏一 八木 洋 上松瀬 勝男―
(はじめに)葛根湯を肩こりに対して投与し、サーモトレーサーを用いて、
①頸部体表温の計測による肩こりの他覚的診断の可能性、
②葛根湯の肩こりに対する改善効果予測の可能性、
③葛根湯投与による頸部体温の推移と葛根湯の肩こりに対する改善効果との関連、
④葛根湯の肩こりに対する有用性について、それぞれ検討した。(以下、論文参照)
(結果)肩こりに対する葛根湯の改善効果を肩こり群19例を対象にして検討した。
著明改善:21.1%
改善:42.1%
やや改善:15.8%
不変:21.1%で、悪化したものは見られなかった。
葛根湯の効果は、改善以上が63.2%、やや改善以上は78.9%であった。
(以下、論文参照)
葛根湯の安全性については、成人群の中に、
下痢が3.7%に認められた以外に副作用はなかった。
「医療用・一般用漢方製剤の情報の比較検討」
―成橋 和正 斎藤 唯衣 藏所 志穂 津江 南瑠海―
(緒言)葛根湯は葛根、大棗、麻黄、甘草、桂皮、勺薬、生姜の7種類の生薬からなる煎剤である。
適応病態としては
① 感染症の初期(太陽病)で無汗・悪寒・項背の筋緊張があるとき、辛温解表剤として
② 筋緊張性の肩こり・頭痛に対して用いられる。
適応疾患としては
① 寒証の上気道炎
② 眼・皮膚などの感染症の初期
③ 筋緊張性の肩こり・頭痛が挙げられる。
熱病の初期は発汗されることが治療であり、葛根湯は感冒剤ではなく発汗剤である。
精神保健福祉士・介護福祉士
伊藤 大宜