不安とはいったいなんだろう?森田理論
不安とはいったいなんだろう
数限りなくある不安。大きく分けて、
健康や育児についての不安。社会生活についての不安に分けられる。
この二つの不安は、人間のもつ欲求の二つの側面、
「生物的自己保存欲求」と「社会的自己保存欲求」と表裏の関係にある。
生物的自己保存欲求とは、全ての生物が生まれながらに持っている、
自身の生命を維持し、種を存続させようとする本能のことで、健康で長生きしたい、
子供を丈夫に育てたいといった心の側面で、この欲求が強ければ強いほど、健康や育児についての不安が強い。
自己保存欲求の具体的な行動は
l 食料の確保 生存に必要なエネルギーを得るため、食べ物を探し求める行動。
l 安全な場所の確保 捕食者から身を守るため、隠れ家や巣を作る行動。
l 繁殖 種を存続させるため、子孫を残す行動。
l 危険回避 痛みや苦痛から逃れようとする行動。
これらの行動は、一見異なるように見えますが、根底には「生き延びたい」という共通の欲求が働いる。
二つめの、社会的自己保存欲求とは、生物学的な自己保存欲求が、
個体の生存と種の繁栄を目的とするのに対し、社会的自己保存欲求は、
社会集団の一員として生き残るために、個人が持つ欲求。
人からよく思われたい、向上し、発展して人から認められたいといった心の側面で、
この欲求が強ければ強いほど、人間関係や仕事など社会生活についての不安が強い。
社会的自己保存欲求の特徴
l 所属感の欲求 ある集団に属し、認められたいという欲求。
l 安全保障の欲求 社会的な安定や秩序を求める欲求。
l 自己肯定の欲求 集団の中で自分の価値や存在意義を感じたいという欲求。
l 社会的な地位や名誉の欲求 社会の中で高い地位や評価を得たいという欲求。
神経質な人は、一般に心配性で不安を感じやすい。それは欲求が強いからである。
不安を感じると、自然に警戒心が強くなる。この感情の自然の活動に従って、
ビクビクハラハラしながら行動すれば、それが「あるがまま」*であり、
欲求が満たされ、不安も解消し満足感と安心がこれに代わる。
*「あるがまま」とは、症状あるいはそれにともなう苦悩、不安を素直に認め、
それに抵抗したり、否定したり、あるいはごまかしたり、
回避したりしないで、そのまま受け入れることである。
5年10年も長い間、病状を克服するため悪戦苦闘を続けている神経質者の姿は、
たとえ誤った認識からとはいえ、努力、忍耐、真剣、まじめ、
徹底性、粘り強さの手本のようなものである。
したがって、ひとたび自分の誤認を自覚して「あるがまま」を体現していくと、
これらの特徴がそのままプラスに働く場合がある。
不安は、私たちの生活にとって不可欠の防衛策である。
敏感すぎると、警戒心ばかり先に立って、
「石橋をたたいても渡らない」ということになりやすい。
とはいっても不安が鈍磨しては、不用心になって、
生活を危険におとしいれることになる。
「石橋をたたいても渡らない」人は、何かことをなすに当たって、
予想できるあらゆる事態に対して安心のいく対応策を考えようとする。
考えるだけでなく準備しておこうとする。いかなる事態が突発しても、
完璧に対応できるという自信が持てないうちには、行動にでられない。
ところが、起こりうるあらゆる事態を想定することも、
対応策を準備することも、実際にはできるはずがない。
不安は尽きないし、自信が持てるはずがない。
ついに行動に出られないという結果になってしまう。
おわかりだろうか、不安はそのままにして、
とりあえず行動に移す、行動することで何も起きない状況を
確認することができれば、不安があるために行動が制限されていたことに気づく。
参考)著者 長谷川 洋三『森田式精神健康法』発行所 株式会社 三笠書房
精神保健福祉士・介護福祉士
森田療法家
伊藤 大宜