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疾病恐怖はこうして克服する~森田療法

疾病恐怖症はこうして克服する


 「生きたい。死にたくない」というのは
すべての生物が、意識すると否とにかかわらず、
もっている本能である。
もっとも人間は時として生きるのを嫌って死を選ぶこともあるが、
それは例外で、各人特別の理由があってのことである。


 一般に共通してわれわれは特別の事情がない限り、
生きたい、どこまでも生きていきたいのであり、
その反面死を恐れるのである。
生きたい欲望のない人間は死ぬのも怖くない。
よく人は死ぬときはどんなにつらかろうと思うのであるが、
死期に近づけば心身ともにおとろえて生の欲望は自然に希薄になるので、
死の恐怖もしだいに影をひそめて、
多くは眠るがごとく往生を遂げるものであり、
死にたくないと叫びながら悶えて死ぬということは
ほとんどないのである。
死ぬのは怖い怖いと言っているうちはまだまだ元気があるので、
本当に死ぬ時機ではない。

 死ぬのが怖いから死ぬ原因となる病気が怖いと
いうのもけっして無理ではない。
心臓病、結核、高血圧、急性伝染病などは
直接死因になるというので、これらを恐怖する人が多い。(中略)


 病気を恐れるのは一般の人情であり、
そのために普通の人々は、ある程度の衛生を守って
恐怖にとらわれることなしに、かえって恐怖が役立っているのである。
しかるに神経質の人には、極端に病気を恐れてそのために
委縮してかえって健康を害している人もある。
普通人にとっては大いに活動せんがために健康を重視するのであり、
健康は二義的なものであるが、
疾病恐怖の人はあたかも病気にかからないことが
人生の第一義のことであると思い、
病気にかからないために生きているという観を呈するのである。
まるで本末を顛倒している。


 神経質症状としての疾病恐怖は、
対人恐怖とともに両大関の位置を占めているほど多いもである。
恐怖にとりつかれる動機は各人各様であるが、
はっきりとした動機を自覚していない人々も多い。

 Aは親族の者が腸チフスにかかってからばい菌恐怖になり、
一日数十回手を消毒しなければ気がすまない。
Bは一度立ちくらみがしてから、脳貧血を恐れ、
卒倒恐怖となり外出することが困難になり(中略)

 こうゆう恐怖をもつようになると
自己暗示的に神経症にいろいろの症状が出てくるから、
患者はますます不安になり、
不安になるから神経症状もますますひどくなるという
交互作用をきたすのである。(中略)


 器質(器官の実質)的の疾患と異なって、
こういう病気は養生したり、
服薬したりすればするほど結果はよくない。
病人意識が強くなるばかりである。

 健康な生活というのは仕事に忙しい生活である。
無為にしていると病気のことばかりが気になり、
健康な生活への自信はいつまでも体得されない。
症状があるままに、仕事をやっていく。
症状は症状、仕事は仕事という生活を徹底させる。
症状があれば、何もやらぬということになると、
症状はいよいよ恐るべきものになる。
そして仕事をすることによって心は自然と外交化して、
内向的な心の執着が離れていく。
仕事はなるべく手足を動かしてやるようなことをさせる。


参考)

著者 高良 武久『神経質と性格学』発行所 株式会社 白揚社


精神保健福祉士・介護福祉士

伊藤 大宜

 

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