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思春期における精神保健

思春期における精神保健

 

 「思春期」という用語は一般にはややあいまいな使われ方がなされている。
しかし、医学的には定義が明確で、身体的な第2次性徴の
発現の始まりから終わりまでを指す。
この時期に脳の視床下部から分泌される
性腺刺激ホルモン放出が増加し、これを受けて
脳下垂体の性腺刺激ホルモンが分泌される。

*性腺刺激ホルモンとは?
脳の下垂体前葉から分泌されるホルモンの一種で、
生殖器を刺激して生殖機能を調節する働きを持っています。

 

その結果、男性では精巣が、
女性では卵巣が発育し、精巣からのテストステロンや卵巣からの
エストロゲンの分泌によって、第2次性徴が現れ、生殖が可能になる。
たいてい9~11歳で始まり、性器の成長に続いて、順次それ以外の外形的な変化が起きる。

 このように、思春期というのは、
身体的に子どもが大人になるまでの中間にある時期を指しており、
心理的な発達段階とは必ずしも一致しない。

 

 心理社会的にみたライフサイクルの観点からは、
学童期の次には、青年期が来る。
研究者は学童期と青年期の中間に「前青年期」を位置づけ、
この時期に特有な同性の友人関係を人格形成上、重要であると論じている。

 

 この時期(10歳前後から14歳前後:精神科医 笠原 嘉)の身体的変化は
脳にも起きており、認知、感情なども子どもから大人に近づく。
そして、これまでの親から保護を受け指示されるだけの親子関係から距離を置き始め、
家族の外に新たな理想像や心のよりどころを探すようになる。
そこで出会う同性の友人関係は、その後の人生において異性と親密で
安定した人間関係を形成するうえでの基盤となる体験となり、
親からの自立と依存を行き来する葛藤を和らげる、
子どもの心理的成長を助ける役割を果たすと考えられる。

 

思春期の精神保健

 

 思春期に入ると思春期前にはみられなかった精神的・心理的な
問題が顕在化するのも事実である。
例えば不登校は、思春期前からすでに始まっている子どももいるが、
思春期前後で人数が増えてくる。

 また、対人恐怖(対人場面で緊張が強く、実際はそうでないのに相手に不快な印象を与えているのではないかという恐怖)、
自己臭恐怖(実際はそうでないのに自分の身体から不快なにおいが発散し、他人を不快にさせているため自分は嫌われているという妄想的確信)、
醜形恐怖(実際はそうでないのに自分の容貌や体形が他人と比べて醜いという妄想信)などは、
思春期特有の自意識と関連した症状である。

 

留意すべきその他の精神保健問題

 

①    摂食障害

やせ病態が初めて注目された初期のころは、
「思春期やせ症」と呼ばれ、思春期を迎えた中流家庭の「いい子」という
典型像において女性性の受容や母親との依存や自立をめぐる葛藤から論じられることが多かった。
今日、こうした典型的なケースだけでなく、
過食、発達上の問題や性格の偏りのあるケースの増加など、
現れ方に大きな変化がある。また家庭環境もさまざまで、
親子でダイエットしていたり、家庭での食生活が不健康であるなど問題が複雑化し、
子どもの病理だけでは説明できないことが増えてきた。
慢性長期化した状態で成人後、不妊となるケースや、出産しても偏った育児をして
親子で問題を抱えるケースなども増えている。
一方で、重篤化する生命の危険もある病態なので、
思春期の1次予防、2次予防には今後もさらに力を入れる必要がある。

 

②    統合失調症

 好発年齢は青年期・成人期の精神疾患の代表で、
18歳以前に発症する頻度は低いが、11歳前後から発症する場合もまれにある。
若年発症ケースは、周産期異常や発達上の問題がある頻度が高く、
学童期にも何らかの学校不適応が生じやすい。
不登校児のなかにも、のちに統合失調症を発症するケースが混在すると推測される。
精神疾患の予防という考え方は精神疾患に対する偏見が根強い現状を踏まえると議論のあるところなので、
これまで前面に出されることはなかった。
しかし今日、発症前の前駆期に相当する「早期精神病」への
介入に関する研究や実践が国内外で活発となっている。
その背景には、精神病エピソードの始まりから治療が開始されるまでの
期間が長いとより予後が悪いことが明らかになり、
早期介入を進めるためには、社会全体の精神病への偏見の払拭と同時に、
思春期の子どもに対しても精神病についての正しい理解、
そして精神病に対する知識を学校で教えるといった、
一歩踏み込んだ健康教育の重要性が指摘されている。

 

思春期の精神保健の支援と予防

 

 思春期に入った子どもが精神的な問題を抱えた場合、
本人のニーズを最優先に支援することは当然であるが、
家族や周囲の大人の希望と、子ども本人の思いにギャップがある場合、
子どものプライバシーを尊重することを忘れてはならない。
誰のための何のための支援であるかを考え、子ども本人としっかり向き合って
最終的には子どものニーズを優先させる立場に立つ姿勢が大事である。
そうすることで子ども自身が自らの心と行動について現実を受け入れ、
将来の自立をイメージしながら主体的に取り組むことができるからである。
支援者、家族は、子どもの年齢や理解の程度に応じて本人が理解しやすい言葉で、
肯定的な面を強調して、どのように対処することができるのか、
何をすればよいのか、説明できる用意が必要である。



精神保健福祉士・介護福祉士

伊藤 大宜

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