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全治の即時性~森田療法

全治の即時性

造作のいらない『心の離れ技』

 

 最初に申し上げたいのは神経質は自分のイメージで描いた虚構のものであって、
いわば知的遣り繰りや計らいの末に生じたもので、
私はこれを「治そうとする病気」といいます。
後でみれば無駄骨折りがはなはだ熱心にいつまでも
続けられていたことに気がつかれます。

 そこで、それについての心理学的・精神医学的な解説で心を詮議だてすることなく、
直ちに実生活を始めなければなりません。
どの方法がいい方法か、どの考えが正しい考えかという
自分についてのより確かなものをはっきりさせる努力が続いておりますと、
治ることの実際は始まってきません。
それらはすべて「囚われ」、「計らい」、「こだわり」という格好で続くばかりです。
そこで一挙に治るその核心へと入りこむことに苦心があって、
一にかかってこの自分のあり方を離れるという、
考えるだけでも大変な仕事が中心の課題になるわけです。
現にこの目の前にある大きな解決不可能な症状をどうして離れ、
解決し去るのであるかということが、
持ちだされています。予測として考える限り、
これはどうにもならない相手みたいです。
治らないだろうという予測が非常にはっきりそこにあるわけですね。
ところがそれが治るということは、また、その見通しよりももっと確実であります。
どこでそうぱっと変わるのだろうと、
まだ治っていらっしゃらない方々がきっと
不思議に思い続けていらっしゃるだろうと存じます。

 それはこうなのですね。
実に簡単なことでして、
今のこの自分を離れてもっと別の変わった自分になるということなのではありません。
これが自分だと心に描き、
それについてとやかく思っておりますその自分が、
いわば余計な仮りに作られた虚構の自分で、
本物でなかったということがやがてはっきり致しますと、
症状から離れることは極めて容易な技術を要しないことなのです。
ただそれだけのこととして放っておくに限るのです。
つまりこれが自分だ、
これが症状だという押せども引けども動かない具合の悪い障害物は、
考えた自分のなかに出てきた目障りな都合の悪いいやなものやことがらで、
それをあってはならないものとしてのぞこうとしたところに問題があるのです。
それが病気の表れである症状と見ておいた方が解釈しやすいものです。
だから、
病気にみたてて治す対象として取り扱うということになったまでのことです。

 

 そこで先程の、
症状が神経質の性質そのもので、
治すも治さないもないことにつきるわけです。
ですから、症状といい、性格といい、心といい、自分といい、
これは皆同じものです。
症状というふうに病気の表れとご覧になった場合はそれに対して治療が考えられます。
また、
これは神経質という性格だということでなんとかもっとのんびり
気楽な性格になりたいということになりますと、
ひとつここで修養、または修行をして人間の向上を図ろうということになります。
それから、心ということになりますと、
宗教ということが当然それに対して出て参ります。
これは自分だということになりますと、
人生とは何か、本来あるべきいい人生ということが考えられて、
また、人生論をこね回すことになります。
こういうふうに、見方によって、それぞれの対策が工夫されるわけですが、
それは描かれた自分と、それに対する自分の思いの葛藤なのです。

 

 字引を引いてみますと、
離れ技というのは、<並はずれた妙技>であるという意味のことが書いてあります。
そうしますと、離れるというのは、
普通平均的なところから離れているほど素晴らしいことであるわけです。
ここでは素直にひっついているものが離れるというあの素朴な意味にとりまして、
お話を進めます。
つまり自分についてのどのような解釈も、
またそれに対するいろいろな方策も、
考えた自分を基にしてのことですから、
この生き生きした自分とは別の考えにすぎなくて、
実際ではありません。そこで、この場合すべて自分をお客さんにして、
というのは自分は勿論主人として加わって、
それに対して自分が向こうに客体としてお客さんとして加わって議論が進んでいくのです。
そうしますと、
自分がどうしてもいい方へ、
楽な方へ、あるいは健康な方へ幸福な方へと向かいたくなります。
人情でどうしても一方を望み、その反対の方を嫌うということになりがちです。
そういった考えのなかで生活しております自分、
自分の生活というものが、森田先生流にいえば生の欲望=よりよい生き方への欲望と、
死の恐怖ということが二つに分かれているという、
それを免れません。
ところがいったん、全く自分に言葉とか考えとか理屈・論理とか、
生きている事実を便利に置き換えてしまう知的なものを
使わないというところから話は大きく変わります。
自分というもの、心というもの、あるいは性格というもの、
症状というものなどが、急に成り立たなくなってしまうのです。

 これは皆さん方が作業をはじめ、
日常生活にとりあえず骨折っておられる時には、
間違いなく出てきますもので、決して考えからではありません。
こうみてきますと、治すのは、実際の生活があって初めて成り立つことです。
考えをめぐらして治そうとするという自分相手の骨折りが治ることに
結びつくのでは決してありません。
そこで、最も手っ取り早く今治るということを実現しようとします場合には、
難しい工夫を全く持ちこまずに、
いわば突拍子もないことですが、
全治のなかにあって働くということです。
ちっとも治っていないのに、そんなことができるものかとお考えになりましょうが、
理屈を超えるという意味で、
症状のなかに浸って生活をするというのも、
全治のなかにあって働くというのも同じで、
これは自分について手だしをする前に実際の行動をするということですね。
今までは、症状をもったまま働くとお話ししてきました。
勿論それで十分なのですが、今度は全治のなかにあって働くというふうに、
逆にこうもってきますと、あれあれと意外な感じになられると思います。
そういうふうに、考えの上で納得のいく方式というものをつい作りがちになりますから、
それからはずれて、それをやめて、
考えた皆さんご自身これが自分だ症状だと、
そうご覧になっていますものとは全く別に、
とりあえずのお仕事を始めていらっしゃれば、
もうそこからは全治がその瞬間から始まるよりほかなくて、
もう決定的な脱線はありません。
全治の状態をどのようにして、明らかな事実としてお見せしたらいいか、
そういうもは私どもの苦心といえば苦心です。

 

 皆さんにわかっていただこうとして、こうではありませんか、
こうでしょうと、こうもっていって、
その全治の状態をおつかみになることは真の魔法からはずれます。
私が今、離れ技と申しておりますのは、考えを通さずに、
直接にこのようなものとして生活の最中に、
ここでしたら大勢の方がご一緒に数時間過ごされましたこのこと、
その事実を生活の事実として、
急速にここで全治が成り立ち得るのです。
そういうことのために千・万の言葉が費やされますわけで、
事実は正にこれだけのことです。
いったん自分についてお考えをちょっと横におかれて、実生活に励まれます時は、
もう本物の皆さん、全治の人以外の何者でもありません。
考えに置き換えてのご自分を調節したり操作したり管理したりなさることから、
もうすっかり手間が省けまして、
実生活にだけ全力を発揮されるという状態に知らない間になっておられるわけです。
こういうのが心の離れ技であるわけです。
神経質にひっかかった状態についてのご自分の説明的なものが
何一つその跡をとどめないような状態が、
今日この場で完成するのです。
残っていましたら、放っておかれたら十分です。
後始末がいらないというのが、こころの結構なところでもあるわけです。
皆さん方のご精進を祈ってやみません。


著者 宇佐晋一
「あるがままの世界」
発行所 東方出版


精神保健福祉士・介護福祉士
伊藤 大宜

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