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心・この決められないもの~森田理論

心・この決められないもの

 

 皆様方が例外なく陥りがちなのはこうです。
心の葛藤の解決、不安に対する納得などを性急に求めようとすることです。

 心は自分の意志ではどうしようもない世界ですから
それら心の動きに対して、知らん顔、放ったらかしにすることが
肝要なのです。
つまり心の問題は自分で責任をとる必要がないことなのです。
心というものはもやもやとしたものでして、明確な、きっぱりと、
はっきりとした姿を示されることがない方向へと、
どなた様のお気持ちのなかでも変化し続けるのです。
しかし、人間の知性というものは、物事をはっきりつかみたいということから、
何時も形を与えていこう、決まったものとして捕らえて
いこうというふうに、考えや言葉で組み立てていく働きを致します。

 

 また一方、心は言葉のない、どのようにも決められないものとして、
明確な結論づけをやめていく方向へと、
この療法をきっかけとしてどなたもがなさっていらっしゃるのです。
そうしますと、いかにも中ぶらりんでしり切れトンボで、
わかったような、わからないような、というよりは、
むしろ、〈わからなさ〉ということの方がよく当たっている世界が
広がってくる。それが、実は灯火なのです。
結論やまとめを持ち出すことで逆に暗やみになってしまうんですね。
見当がつかなくなってしまうのです。
そういうことですから、治したくなくてもひとりでに治るようになっている
のであるということですね。

 

 皆様がどういう意志をお持ちになりましょうとも、
そのことに全く無関係に、ひとりでに、考えて決めていらっしゃった
御自分の捕え方が薄れて、そして消え去ってしまう。
そこにこうなのだとは全く決められない、そのまま、あるがままの状態が
非常にはっきりした形で変化のままに現れているという状態が、
これが実は本物の全治であります。
皆様が御自分の心の状態に責任を感じられて、
御自分のことだからというので一生懸命工夫なさる、
その遣り繰りでは遂に見い出されることのなかった光が、
ともったといってよろしいです。
これが、治るようになっているという、ひとりでのあるがままの確かさなのです。
それが、神経質である状態か、またはそれがそうでなくなった状態か
ということも全く「我不関焉」というこだわりのなさに徹底して、
その成り行きのままでいることです。答がいらないのです。

 

 心の内側の問題というのは、
何の操作も、差し当たって必要のないところに味があるんです。
神経質のままで一向差し支えないのですね。
それから、神経質でなくなるかも知れませんから、
その時はそれでも一向差し支えありません。
そこに、善意でもって値打ちをつけたり、
低めて考えたりするという対象がなくなってしまうんですね。
そうしますと、かつてのように自分をしっかりさせてから仕事を
しようなどという一切の段取りがもはやいりません。
ただすべての努力が、皆様方にとって目の前にあるもの、
世間のこと、今いらっしゃる環境でのお仕事、
勉強などを、ひっくるめて生活のすべてにわたって、
その差し当たっての前進が、知恵の働かせどころ、
あるいは問題解決の努力の姿となって、
これはもう治る治らないの沙汰ではないのですね。

 

 振り返ってどうご自身で点数をおつけになるかということとかかわりなく、
実生活が、この今の現実のこの時この場面で、
早速、最高に知恵をしぼって始められる時に、完璧な全治、
もうそれ以上のことはこの場ではないというほどの姿が、
ひとりでにそこに現れているのです。
段階というものを抜きにして、日々の生活そのものを全治と
見るこの手っ取り早い解決は、ひとえに現実場面での骨折りとか
苦しみとか、いわゆる症状とはかかわりのないところでの
問題解決の骨折りがあるばかりです。

 はるか将来、遠い先のことと考えておられたそのことが、
今、直ちにこの場でのこととして成り立つのです。
ですから、この療法ほどあっけなく治る確かな道はないと申せます。

 その不安にしても悩みにしても、
神経質の症状というものをいったん取り上げて、
それをどうするかということから出発した治し方は、
ことごとく失敗に終わります。

 それに比べて毎日の皆様のお仕事や生活から始まります現実的な
骨折り、努力、苦心、あるいは尽力、そういう、昔にふうにいえば、
精進の毎日は、ことごとく全治、全治、全治の連続であると申せる訳ですね。
こうして、それぞれの方の限りなくさまざまの体験を、
ありとあらゆる変化の姿で〈あるがまま・そのまま〉をおつかみ戴いて
決して心の問題をまとめて結論づけることに手出しをしないことです。

 その時は、かえって皆様が予想されます全治の姿よりももっと手っ取り早く
心の遣り繰りなしに現実に生きる人としての全治を、
見事、御自分のものになさることが出来ます。

 

 

著者 宇佐 晋一 木下 勇作『あるがままの世界―仏教と森田療法―』

発行所 東方出版((株)


精神保健福祉士・介護福祉士
森田療法研究家

伊藤 大宜

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