被害者・被災者のこころの問題
被害者・被災者のこころの問題
事件事故、被災した人に起こりうる心身の反応と症状
事件事故、災害直後の精神的な動揺や心身の症状は
多くは、ひどいショックを受けたときに誰にでも起こる正常な反応です。
大部分の被害者、被災者は、家族や友人などの身近な人の援助や
自身の対処行動により通常1ヵ月以内で回復します。
ただし、地震の被害で余震が続いたり、
暴行の被害で加害者が身近にいる可能性があるなど、
恐怖の対象が取り払われない状況下では、より長く続くこともあります。
さまざまなストレス反応
心理・感情面
・ 睡眠障害(不眠・悪夢)
・ 恐怖の揺り戻し、強い不安
・ 孤立感、意欲の減退
・ イライラする、怒りっぽくなる
・ 気分が落ち込む
・ 自分を責める
思考面
・ 集中力の低下
・ 無気力
・ 混乱して思い出せない
・ 判断力や決断力の低下
・ 選択肢や優先順位を考えつかない
身体面
・ 頭痛、筋肉痛、胸痛
・ だるい、めまい、吐き気
・ 下痢、胃痛
・ 風邪をひきやすい
・ 動悸、震え、発汗
・ 持病の悪化
行動の変化
・ 神経が過敏
・ ちょっとしたことけんかになる
・ ひきこもり
・ 食欲不振や過食
・ 飲酒や喫煙の増大
・ 子供がえり
災害とストレスとストレス障害
一部の人々には、時がたってもその体験が
過去のものとなっていかずに、こころやからだの不調が長引くことがあります。
1) 心的外傷後のストレス症状
① 再体験症状
再体験症状とは、災害の体験に関する不快な場面の記憶が、
フラッシュバックや夢の形で繰り返しよみがえることです。
何かのきっかけで災害の体験のことを思い出させられたときの気持ちの動揺や、
動悸や冷汗などの身体反応も含まれます。
再体験症状は、急激に、過去の経験が今目の前で起こっているかのように再現されるもので、
大きな苦痛を伴います。それがいつどこで起こるかも分からない不安も常に抱えています。
② 回避・麻痺症状
災害の体験に関して考えたり話したり、感情がわき起こるのを極力避けようとすることや、
思い出させる場所や物を避けようとすることです。
また一部の記憶を思い出せないという場合もあります。
感情が麻痺したようで愛情や幸福などの感情を感じにくくなる、といった変化が生じます。
③ 過覚醒症状
何事にも必要以上に警戒してちょっとした物音などでもビクッとしてしまったり、
うまく寝付けない、眠りが浅いなど、精神的緊張が高まった状態です。
また、イライラして起こりっぽくなる、物事に集中できないなど、
日々の生活や人間関係にも影響する症状です。
こうした症状が事件事故、災害後1ヵ月未満にみられれば
急性ストレス障害(ADS)、1ヵ月以上長引く場合には、PTSDが疑われます。
ADSの時期に、回避・麻痺症状の1つでもある、
「自分が自分でないように感じられる」
「現実感が乏しい」などの「解離症状」を呈することがあります。
この症状が強い人はPTSD発症の可能性が高いと言われています。
支援者・家族の対応
① 話の聴き方
ストレス反応を軽減させる方法として最もよい方法は、
被害、被災体験を聴くことです。
被害、被災体験を聴くときには、相手のペースに任せてひたすら聴くことが大事です。
(ア) まず最初に、被害、被災状況や体調について声をかけます。ゆっくりと自然な感じで話します。
(イ) 途中で話を妨げないで、かつ、共感する姿勢で聴きましょう。
(ウ) 相手の気持ちを聴き(「そのときどの様なお気持ちでしたか?」など)、感情をあるがままに受けとめましょう(「~のように感じられたのですね」など)。
(エ) 無理に聴き出すことは避け、本人が話すのにまかせましょう。
(オ) 安易な励ましや助言は禁物です。
(カ) 被害、災害時を無理に思い起こさせるような聴き方は避けましょう。
② 早期に専門機関への相談が必要な場合
以下のような反応がみられる場合には、できるだけ早く専門機関につなぎましょう。
(ア) 強度の不眠が続いている場合。
(イ) 強い緊張と興奮が取れない場合。
(ウ) 幻覚・妄想がある場合(周囲に対し、被害的言動が目立つ)。
(エ) 表情が全くない場合。
(オ) ストレスによる身体症状が深刻な場合。
(カ) ひどく落ち込んでいたり、自殺の恐れが感じられたりする場合。
(キ) 心的外傷後のストレス症状が顕著な場合。
被害、災害にあわれた際は、早期の支援が必要です。
ご家族や友人、身近にいるかたが当事者のこころの支えになります。
寄り添いはなしを聴くことが大切でしょう。
参考)沖縄県「災害時におけるこころのケア活動マニュアル」
精神保健福祉士・防災士
伊藤 大宜