いわゆる「精神交互作用」―不安な注意と病感の悪循環 ~森田理論
いわゆる「精神交互作用」―不安な注意と病感の悪循環
試みに、自分の体のどこかに掻いたら気持ちがよさそうな
ところはないかと、こまかに気を配ってみたまえ。
たいていどこかにかゆいところが出てくるものだ。
尿道のほうに注意を向けると、
何となく排尿したらさっぱりするだろうという
尿意が起こってくる。
私たちの感覚というものは、
そこに注意を向けると鋭く感じられるし、
ほかのことに夢中になっていると、
多少の痛みにも感じがなくなる。(中略)
不眠症の人などは音が眠りの邪魔になると思って、
音を遠ざけようとするとかえって注意が向いて
音に悩まされる例がある。
遠ざけようとするのと無関心とは違うので、
いっそうそれを意識することになる。
悪循環と言わざるをえない。(中略)
疲労亢進、性的障害、ふるえ、そのほか、
いわゆる普通神経質症の症状は、
このような注意と感覚の交互作用から発展し、
固定し、その間に自己暗示が加わっているのである。
精神的な面についても、
やはりこのような交互作用が行われる。
たとえば記憶不良(記憶障害)を苦にする症状を考えると、
ある機会に何かを思い出せないとか、
うっかり失念(もの忘れ)したという経験があると、
それが不安の対象になり、
自分は病的に記憶が減退していると思いこんでしまう。
そしてしきりに自分の記憶力を試してみる。
そうすると、誰でも思い出せないことや忘れていることは多いもので、
神経質症の人はそればかりを問題にしていよいよ
記憶不良(記憶障害)の感を強くするという結果になる。
その他、注意散乱(注意散漫)、雑念恐怖、対人恐怖など、
種々の強迫観念や恐怖にもこのようなからくりが伴っている。
これらのことをよく理解することが大切である。
著者 高良 武久『森田療法のすすめ』発行所 株式会社 白揚社
精神保健福祉士・介護福祉士
森田療法研究家
伊藤 大宜