不健康な長生きの国
不健康な長生きの国
社会的なシステムも整ってきた現代では、
我が国でも多くの人が健康診断を受けるようになっています。
でも、嘆かわしいことに、
その中で「異状ない」とされる人は11%(2010年)に過ぎません。
一方で、日本人は世界一の長寿を誇っています。
2020年の日本人の平均寿命は、
女性が87.74歳、男性が81.64歳。
女性は8年連続世界一位、男性も9年連続最高位で世界第二位の長寿を保っています。
「現在、健康かどうか」についてみると、
「健康である」の割合は、
日本、アメリカ、スウェーデンで高い
(日本52.9%、アメリカ66.7%、スウェーデン60.4%)、となっています。
日本は不健康な長生きの国だということです。(中略)
長寿ではあっても、
必ずしも幸福とは言いきれないところに今の問題があります。
とにかく長生きができれば、
病気でも寝たきりでも何でもいいということではないはずです。
やはり元気でいることが大前提。
だとすると、究極のところ、「食」に行き着かざるを得ないのです。
私たちの身体は食べたもので作られています。
ということは、
食べるものの質によって身体の質が左右される。
だからこそ、食べることで身体を壊すという事態も起きるのです。(中略)
死因のトップは生活習慣病です。
これは「食原病」とも言われていて、
食べているものが原因で身体が壊れているということなのです。
過食も病気の原因ランキング上位ですから、
「食」を改めるだけで相当変わるはずですが、
まずは普段食べているものの質を見直す必要があります。
糖尿病の脅威と要因
日本では、驚くなかれ成人の5人に1人が糖尿病、
またその予備軍と言われています(国民健康・栄養調査 2007年)。
糖尿病というと、一昔前は贅沢病のようなイメージがあったと思うのです。
ところが、統計を調べていくと今は貧困者層に多い。
糖尿病の原因は、砂糖だけではありません。
患者の食生活を克明に調べてみると、
「食物繊維の摂取量が極端に少ない」ことがわかるのです。
野菜不足は言うに及ばず、
穀物でも精製したものばかりを食べているということです。
食物繊維がたっぷり摂られていると、
食物が腸を流れていく間に少しずつブドウ糖が吸収されるので、
血糖値が上がる速度を緩やかにしてくれます。
いい状態で血糖値を維持できるのです。
血糖値が穏やかに上がって、
上がった位置をしばらくキープして穏やかに下がっていく
理想的な形・プラトー(=台地)を実現してくれるのが食物繊維。
そういう意味もあって穀物を精製しないで摂ることを勧めています。
もちろん穀物以外にも食物繊維を摂る方法はたくさんあって、
野菜、豆類、海藻類、それからキノコ、果物にも大量に含まれています。
果物は特に皮ごと食べると良質の食物繊維を多く摂ることができます。
糖尿病のもう一つ大きな要因として、
「飽和脂肪の摂取量が多い」ことも挙げられます。
バターや、牛肉、豚肉、その他の獣肉などを食べると必然的に
飽和脂肪をとることになってしまう。
脂肪の量なんて大したことないと思うかもしれませんけれども、
サーロインステーキを食べて摂取してしまう飽和脂肪の量は、
身体にとっては多過ぎなのです。
飽和脂肪酸が血中に過剰になるとそれを脂肪組織に摂り込む作業が優先され、
糖があふれていてもその処理が後回しにされ、糖尿病に近づきます。
要因としてはこれも最も重要かと思われますが、
「トランス型脂肪酸の摂取量が多い」ことです。
飽和でも不飽和でも、天然に存在する脂肪酸は基本的にシス型。
それと対比されるトランス型脂肪酸というのは、
マーガリンやショートニングなどに大量に含まれています。
お菓子やパンを作る時に使われる固形の油です。
不飽和脂肪に工業的に水素原子を一つ、
圧力をかけて添加すると安定的になり、酸化もしにくくなります。
工業的に作られた固形の油が、
トランス型脂肪酸です。組成がプラスチックに似ていることから
アメリカでは「プラスチック食品」とも呼ばれています。
トランス型脂肪酸を体内に取り込むと、
悪玉と言われているLDLコレステロール値が高くなり、
同時に善玉と呼ばれるHDLコレステロールの値は下がります。
トランス型脂肪酸を摂っただけでこの現象が起きます。
コレステロールというのは身体に必要な者ですが、
善玉のコレステロール値が高くて悪玉が低いというのがよい状態。
それを逆転させてしまうのです。これがトランス脂肪酸による弊害です。
もう一つは、心筋梗塞、脳卒中といった、
血液が塊を作ってしまうことによって起きる疾病へのリスクを高めます。
血液の粘度を高める作用をするのです。
著者 南 清貴『究極の食 身体を傷つけない食べ方』発行所 株式会社講談社
精神保健福祉士・介護福祉士
伊藤 大宜